Short Storys

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●湯気●
 部屋でコーヒーを沸かすことが楽しみのひとつになった。コーヒーを沸かす、とは言っても正確にはキャンプ用のシングルコンロでコーヒーのお湯を沸かしているだけなのだが、それだけでもなんとなく、いつもより美味くなるのだ。
 全開にした窓の外は雨がふっていて、その窓際でお湯をわかしてコーヒーをつくり、それを飲みながらボーっと空をながめていたら気分がよかった。そして、あーなんにも文句ねえやぁ、と体中の筋肉をすべて弛緩させてそのまま読書に没頭していった。

 そして学校のテスト期間が終わったのも気分がいい理由のひとつかもしれない。手ごたえバッチリ!という訳にはいかなかったけど、終わったものは今さらどうこうなるものではないし、バッチリ!ということにしておくのだ。それで気分もバッチリなのだ。

●ぼっくりたちはチャリ専門●
 おれたちはチャリ専門である。おれたち、というのはもちろん俺とダッチョのことである。今日もチャリに乗って自宅を出発、南南西にむかう。「時効警察」というドラマですっかり麻生久美子にハマってしまったので、勢いついでに「Stereo Future」も見てしまおう、と思ってレンタルビデオ屋にむかっているのだ。おれはすでにステレオフューチャーを見たのだが、また見たくなってしまった。金欠でビデオレンタル代150円も惜しいはずなのだが、麻生久美子のこととなれば150万円くらい用意してしまいそうだ。すっかり、ハマッテシマッタのであります。

 得意の替え歌「人体観測」を口ずさみながら軽快に坂を下る。「♪見えないものを見ようとして~ スカートの中をのぞきこんだ~」。京都の町並みを一望できる坂をぐんぐん下っていく。
 レンタルビデオ屋「アメリカ」に到着するなり、いつものようにアダルトコーナーに直行しようとするダッチョを静かに制止する。しかしダッチョはどうしてもアダルトコーナーに行きたいみたいで、制止をふりきって行ってしまった。俺は邦画コーナーへ。
 あったあったあった、一つだけ。ついでに「Short Films」と「Jam Films」という短編映画集も借りることにする。バカ臭のするアメリカ映画なんかすべて排除してこういうイイ邦画をもっと揃えたらいいのにな、とぼんやり思いながらレジに向かった。
 ダッチョはしばらくはオカズに困らないぞ、といった満足顔で、俺に続いて店を出てきた。そしてまたチャリで元きた坂道を上っていく。

 ところが、である。坂を上りきって眼にとびこんできた風景が明らかにおかしい。ここには中古ゴルフ屋があったはず、ここには古びたビリヤード場があったはず・・・。それがない。それどころか、なんにもないのだ。アスファルトの道はヒビ割れ、その割れ目から雑草が噴き出している。目の前にはずっと一面に草が生い茂っていた。
 俺とダッチョは顔を見あわせ、呆然としながら「まるで映画じゃないか」と思った。だって来たときにはキレイに整備された舗装路をチャリに乗ってすいすい走ってきたはずなのに…。今その舗装路がガタガタにヒビ割れ、あったはずの建物がすべてなくなった代わりに異様に背の高い雑草が生い茂っていて、もうまったく荒廃してしまっているのだ。目の前で何が起こっているのかさっぱり理解ができない。
 「もしや・・・」と思って俺たちは恐る恐る、坂の上から京都の町並みをふり返った。

●痔持ち青年●
 痔だ。年に1~2回はこの痔におそわれる。おそろしいのは、それがキレ痔じゃなくてイボ痔のときである。そして今回はその「イボ痔」なのだ。
 痔というのはまず痛い。これはだれもが想像する通り、まあ普通に痛いだけなのだが、問題はその後にくる、うずくようなカユみなのである。痔もまあ一種の傷のようなものなので、それが治るときには傷が治るときのようにカユみを感じるのだ。がしかし、痔の場合はそのカユみの発生源がつまりケツの穴なのですね。これはカユいからといって簡単にカクわけにはいかない部位である。それがもうモジモジモジモジとカユく、それでいてカケナクテ・・・と、文字通り悶絶の様相を呈して俺にせまり、悶絶のモジモジ地獄へといざなっていく、とまあ、ざっとこんな塩梅なのですね。

●虫の心●
 酒を飲んでツブレた奴を見るのはなんだかミジメでつらいなぁ、という書き出しをするはずだったのだが、ヤメタ。これを少し書き出したところでふと天井を見上げると、黒いてんとう虫が歩いていて、そっちにすっかり意識が向いてしまったからだ。そう書いているうちに、てんとう虫はまた80センチほど移動していた。そしてまた20センチ、また20センチ・・・。遠くなっていくにつれ、その黒い点のようなてんとう虫は天井の隅を目指しているのではないかということがわかってきた。天井の隅の、影の中へ。
 と、ここまで書いてまた天井を見上げてみると、もうてんとう虫はどこに行ったのかわからなくなってしまった。てんとう虫はけっこう足が速いのだ。

 30分ほどしてまた、ふと天井を見上げてみると、最初に発見した位置にてんとう虫が戻っていた。まったく、虫の心はつくづくよくわからない。

●深夜には腹が減る●
 深夜に何気なくテレビをつけると、NHKで中国の歴史を特集していた。ここで出てくる名前のひとつひとつがなんとなくファミレスのメニューを想わせるような名前が多いのだ。
 例えば「チンギス・ハン」「フビライ」など。うーん、なんというか、ファミレスというよりは餃子の王将という感じでもあるなぁ。それもそうか。王将は中華飯店だもんなぁ。
 そんなことを考えながら、俺は静かにチキンラーメンにお湯をそそいだ。