コロナは突然に。
「38.0℃…?」
習慣である毎朝の検温でチョーナンが声を上げた。
なんだ…と?
これはキタんじゃないかーと嫌な予感がして、休日診療してくれる病院を探しはじめた。
今日は土曜日である。
なんとか近所の日赤で診てもらえることがわかり、支度をすすめていると
「39.5℃、あかーん!」
とまたチョーナンが声をあげた。
さっきまで元気にごはんを食べていたし、いまも元気そうなんだが。
どうやらこれはキタなと、僕ぼっくりは静かに確信した。
日赤では5時間もかかったが仕方ない。
そして一家みんなが濃厚接触者として、自宅で一週間の隔離生活となるんだって。
そうなればウチのうどん屋も休業せねばならず、勿体ないけど使えない食材は捨てて、家で消費できそうなものだけ持ち帰ることとなった。
チョーナンは安静に寝ていてもらい、僕がその横に付きっきりで様子を看ながらパソコン作業をする。
この体制でこの日は暮れた。
悪化しなかったのは幸い。
チョーナンは丸一日ほど39℃台の熱と闘ったが、さほど体力も奪われずに復活した。
翌日にはケロッとしていて、ごはんもよく食うし、なにせ病気であったのか分からないほど元気である。
しかし感染力のつよい新型コロナウイルスはもう僕の体内にもいるだろうし、また家族みんなが持っている可能性も濃厚であった。
が、なんと結果的には一家のだれにも感染せずに済んだのである。
病院でもらった説明書きには、それでもやはり一週間は家から出てはダメだと書いてあった。
ウチのうどん屋もコロナ休業のお知らせを出したし、パートさんにも事情を伝えて休んでもらうことになっている。
こうして一週間もの時間が、とつぜんに降ってきたわけだ。
元気だけど「休め!家にいろ!」と言われているのである。
そこでやっと気がついた。
ここに一週間もの時間がある。
「カンヅメ」というコトバが脳裏でチラチラと輝きはじめたではないか。
これは文章書きのサガであろう。
この抑えられないワクワクをどうしたものかと、ひとまずジャンピングスクワット10回で表現してみせたのであった。
至福のハコの計画表。
突如としてはじまったカンヅメ生活は、それはもう至福であった。
僕ぼっくりは家のド真ん中のダイニングテーブルの一角に陣取り、ずっとパソコンでなにかを書いていたい。
オクサマもなにやら色々したいことがあるらしく、家のあっちやこっちに行ってはゴソゴソしている。
チョーナンとジナンも、レゴブロックやトミカ、プラレールやラジコンそして人生ゲームなんかに次々と手を出している。
それぞれにやりたかったことを制限なくできる、そんな一週間のまだ初日であった。
僕はタスクをもたないと比較的ボーッとして過ごしがちなので、毎日のノルマっぽいものを決めた。
それは、
・ブログ7記事執筆
・ネットラジオらしきもの2本収録
・Twitter3本以上ツイート
・溜めに溜めた店の会計記帳に手をつける
・ちょっとでも読書(意識高くない系)
・なんでもいいから運動
である。
1日でブログ7記事の執筆は僕にはムリなので、まあAIライティングツールを使ってもOKというユルめの縛り。
それがなければ、時間があっても1日4記事くらいが気力体力の限界である。
ネットラジオらしきものはまぁ、そのブログが台本の役割を果たす。
そして録ったものはそのままYouTubeにも流用した。
Twitterはなにか気の利いたツイートでもしたいが、狙ってもスベるだけなのでテキトーに想ったことをつぶやく。
会計記帳はまぁ、溜めに溜めたツケに手をツケるいいキッカケである。
いよいよ確定申告も迫ってきて、税理士さんからのプレッシャーも来はじめたしね。
そして読書、これは時間ができたら何としてもしたかったこと。
だからタスク完了のご褒美のようなものだ。
さいごの運動は、やっぱりこの生活になると必要不可欠であろうと思ってのこと。
まあそれも、なんかテキトーにやるわ。
こうして僕ぼっくりの一日タスク表ができ、
わが家のシアワセ家族計画も始動したのであった。
カンヅメは桃源郷か。
相変わらずいつものように朝4時に起き、コーヒーをいれつつ洗濯機をまわす。
そしてブログを1記事書いたら、洗濯物を干す。
そうこうしてるうちに誰かが起きてくるはずなのだが、そうか休日感覚ですすんでるのね。
まあそれもいい。
もう1記事ブログを書いていたらオクサマが起きてきた。
ちょうどハラも減ってきたとこだし、すぐさま朝メシの作戦会議をする。
「お茶漬けでいい?コドモたちはパンかな。」
「うん、いいんちゃう?」
これで決まり、カンタンであった。
いま我が家からは、何かを頑張ろうという気配はない。
うんうん、それでいいのだ。
コドモたちもコロコロと起きてきて、ぽかんとしながらパンを食う。
今日もなにも決めゴトのない一日を過ごすのだろう。
うんうんうん、それもいい!
さて。
メシを食ってコドモたちに歯磨き着替えをさせたら、いよいよ「カンヅメ」である。
いやもうワクワクしかない。
なんたって書きまくって過ごしゃぁーいいのだ!
あはははははは!!と言いながらバーピージャンプ10回で表現してみせた。
が、誰も気にしてないようである。
それもいい!!
午前中は集中してブログを書き、合間にラジオを録る。
書くのは苦じゃないが喋るのは苦で、なんかワキあたりに不快なほど汗をかいてしまう。
まあ何でも慣れだよなーと思ってやってみてはいるが、いまだに慣れないなぁ。
またパソコンでのブログ執筆に戻ったら落ち着くのなんのって。
ときどきムスコたちがレゴや何やの成果物をもって見せにくる。
そしてまたテテテテテ…と持ち場に戻っていって、またせっせと精を出していた。
そんな姿をそばに感じながら作業できるのも、またいいものだ。
コロナのせいで保育園や小学校での活動をみる機会が極端に減った。
だからこうして普段のようすをつぶさに見られるのが嬉しい。
コロナのせいであり、コロナのおかげか。
なんだかな。
AIする者。
ブログも3記事ほど書くと集中力が切れはじめる。
そうなると1日ノルマの7記事には到達できないが、わははは僕には「AI」がある。
AIする者なのだ。
もはやヤル気が抜けきった僕は、愛を込めずにAIに込めてもらう手段をとった。
こうすると7記事どころか何十記事でも書ける、いや書いてないか。
僕のすることといったら、AIが自動生成してきた文章をちょこちょこと手直しして投稿するだけ。
もちろんそんな愛のない文章をそこかしこに垂れ流すわけにはいかないので、実験的に執筆させているのは1ブログのみである。
しかしそこで好反応を得た記事はやっと僕の加筆修正をうけて、既存のブログに転載されるのだ。
反応のいい記事だけを登用できるので、とても効率がいい。
3記事の手書きで集中力が切れたあとは、こうした執筆ともいえぬ生産をして7記事のノルマをこなした。
またハラが減ってきたら昼メシの合図だ。
朝がテキトーなぶん、昼は愛をこめて。
ちょっと手をかけたランチを家族でウマウマし、しばしゴロリとくつろぐ。
そしてそのまま午後イッパツめの活動はAmazonPrimeでなにか映画を観ることに決まった。
そこそこコドモ向けのチョイスになってしまうが、
「仮面ライダー・オーズ」
「ジーサンズ」
「ゴーストバスターズ2」
「テルマエ・ロマエ1&2」
どれも良かったし、そして映画は毎日恒例になっていった。
映画を観たあと僕はイヤイヤ会計記帳をすすめ、合間にいくつかツイートしたら、おおよそ夕方に1日のタスクをほぼ終えた。
ムスコたちと風呂からあがり缶ビールをパシッと開けたら、いよいよ最後のタスク「至福の読書」である。
ソファに深く沈みながらキッと冷えたビールをあおり、おもむろに読みふける。
ムスコたちはテレビを観ながらキャーキャー笑っているし、オクサマもなにやら好きな音楽を聴きながら晩メシの用意をしてくれていた。
愛する者。
こうして鍋を囲むのは家族のひとつのシアワセの完成形ではなかろうか。
おでんにも似た野菜たっぷりの鍋には、さっきジナンが庭から抜いてきてくれた大根も入っている。
こうして一日中顔を突き合わせて過ごした一週間だったが、一日一日がまた新しい表情の発見であった。
人は日々変化してるんだなぁー。
僕もまた変化したのだろう、この一週間でやはりすこし考え方が変わったのを感じる。
「頑張るって何だろう」ということだ。
こんな日々を発信していたので、
7記事すごい!とか、
仕事しすぎ!頑張りすぎ!
といった反応もあったが、僕としては頑張ったどころか
「こんなに楽しいことだけしていて大丈夫か」
と心配になったほどだ。
頑張るって何なんだ。
僕は好きなことをしていただけじゃないか。
頑張ってなんかいないのに、成果物はそれなりにできた。
もしかしたら、あえて頑張らないほうに進むことこそが「頑張る」なんじゃないか。
うーん、もうワケがわからない。
ひとつ分かったのは、
愛する者と、好きなこと。
これだけで十分だってことだ。
カンヅメは桃源郷だ。
決して桃の缶詰の話をしているわけではない。
物書きにとって「カンヅメ」は桃源郷であった、という話である。
そしてやはり、外に出るという選択肢もあったほうがいい。
コロナがきっかけで家に一週間こもり、一家でカンヅメを存分に楽しんだ。
だが最終盤にはいよいよ「保育園にいきたい」「小学校にいきたい」と言いだした。
あんなに毎朝イヤイヤ行っていたのに、だ。
まぁそういうものなんだろう。
今日でこのカンヅメ桃源郷もさいご。
僕としては、べつに早くうどん屋にもどって仕事したい!とはなっていないのだが。笑
オクサマはどうなんだろうな。
「まあいっか。」
とりあえずまだ暗い早朝の、しずかなダイニングテーブルで声がもれた。
それをごまかすかのように、開発した「プランク腕立てバーピージャンプ!」なるものを10回をかまし、そのモノオトで家族を起こす作戦にでたが…
あいかわらず誰にも気にされず静かなままである。
「まあいっか。」
結局またそうつぶやいて、これを書いているわけだ。
缶。