ビフィズス菌たちが仲間

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 カプセルホテルのチェックインを済ませ、自分のカプセルを確認する暇もなく就職面接に出発した。向かうは千葉県の市川。時間に余裕はあるが、初めての地だけあって油断は禁物、と思うと3時間前の出発になった。
 電車に間違わずに乗れるか心配してたけど、東京に来る前にこれでもか!というくらい調べてきたので難なく市川に到着した。まだ面接の時間まで2時間ある。気持ちを落ち着けようと喫茶店に入った。

 コーヒーとホットドッグを頼み、窓辺の席で文庫本を読んだ。落ち着け落ち着けと思えば思うほど緊張した。緊張して縮んだ胃にコーヒーがしみて痛い。緊張で乾いた喉にホットドッグがつらい。本を読む目は文字を追ってるけど一向に頭に入ってこない。節穴の目でトイレを探し、ぜえぜえ言いながらションベンをした。そしてヨタヨタと窓辺の席に戻りフシアナ読書を続けた。あぁ、こんな時にコーヒーじゃなくて愛しのマミー500mlパックが飲めたら落ち着くのになぁーと思った。ん?飲みたいなら飲めばいいじゃんか!と、にわか関東弁でひらめき、急いで会計を済ませ喫茶店を出た。コンビニ、コンビニ、こんびに・・・・あった!!

 緊張で固まった体でポクポクポクとジュースのコーナーに向かい、マミーを探す。あ、あった。あった!!固まった体でポキポキっとレジに向かった。「袋はいりません」と言った声が妙にでかくなってしまい、店内に響きわたって恥ずかしかった。マミーを握りしめコンビニを出て、がらんとした路地で飲んだ。ストローなんてこざかしいモノは使わない。喉を鳴らして男らしくドドッといく。飲んでるのはマミーやけどね。あぁ、落ち着く。3分の1ほどを残して煙草を一服し、吸い終わると残りを一気に飲み干すのがいつもの飲み方。マミーとは長い付き合いになるなあ。ずっと飲んでるもんな。好きを通り越して、愛してる。愛をもってキレイにたたみ、ゴミ箱にぽいっと捨てた。

 さーて、いよいよ面接30分前。マミーに元気をもらった俺は大量のビフィズス菌を味方につけ、面接会場のビルに乗り込んだ。しかし、エレベーターで会場に近づくにつれ緊張虫は復活し、へんな汗が出てきた。ビフィズス菌がんばれ!!と叫んだが「俺たち専門外やもんね」と薄情にそっぽを向き、せっせと小腸あたりを動かしてた。頼りは我が身一つ。気分はどっと井戸の中に浸かり、待合室に並んだ。
 そこには関西人4人がいた。面接が控えてるだけあって、軽く交わす会話も弾まない。たぶん普通の状況で喋ったら面白いであろう4人だ。みんな緊張してた。そわそわした目で手のひらなんかを眺めたり、何度も便所に行ったり来たりしてた。みんな露骨に緊張してた。こういう時の人間の行動は見てて面白い。自分も緊張してるくせに妙に冷静に「こいつら緊張してんなぁ」と思って眺めた。
 そうしてるうちに面接の部屋から2人出てきて、待合室の2人が呼ばれた。2人はシャキッと歩いていき、扉の向こうに消えた。扉の向こうが尋問室のように思えた。待合室に残った俺ともう一人はぐっと押し黙り、扉の向こうを凝視したりしていた。
 長かった。俺は汗をぬぐい、もう一人はずっと自分の爪を眺めてた。そうしてるうちに扉の向こうから「ありがとうございました!」と大声が聞こえ、約20分の面接を終え2人が出てきた。その後に人事のお姉さんが出てきて、俺ら2人の名前を呼んだ。

 失礼します、と言ってお辞儀をして俺ら2人は入室した。面接官は2人。「どうぞお掛けください」と右の面接官が言い、2人同時に座った。ここからが苦しかった。
 「どちらの方からでも結構ですので、まず自己紹介をお願いします」と言われ、先手必勝とばかりに俺が手をビシッと挙げて「はいっ!!」と言った。しかーし!頭の中は全くまとまってない。ずるずるずるりと始まった俺の自己紹介はやたらまとまりが無く長く、言いたかった言葉が口から出かかった途端に真っ白になって消え、何度も言葉につまる俺に面接官の2人にも苛立ちの表情が見えた。長い長い自己紹介を終え、いくつか質問にこたえ、もう一人の自己紹介が始まった。それはものすごくまとまってて、途中でつまる事もなく綺麗で簡潔だった。すっかり落ちこんでしまった俺もなんとか明るい表情を保とうとするものの、顔の端々が引きつってヒクヒクした。質問がいつ自分に襲いかかってくるかに怯えて、まな板の鯉状態で口をパクパクさせた。しかし落ちこんだ気持ちはだんだん諦めにも似た開き直りへと変わり、その後、自分の中の素の部分をむき出しにしてでぇりゃあぁぉおおうっっ!!と勝負した。

 その後は言葉に何の装飾も施さず、自分の考えから自然にでてくる言葉のまま挑んだ。この会社が第一希望なだけに、面接でこんな状況に陥ってる自分がものすごく歯痒かった。しかしこれ以上書くとまた鯉の気分になってしまうので、面接の話は終わり!続きが読みたいなんてダメったらダメ!!と、おやつコーナーに寝転んでおねだりする子供を叱るオカンの顔になってこれを書いている。そう、この続きはまた東京うかれ旅のネオン七色ぎんぎら看板街のうかれ話に戻っていく気配である。うん、そやねん。