ほの暗い部屋の隅から

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 いつもと同じ風景がなぜか新鮮に見える、今日はそんな一日だった。ずっと降り続いていた雨が今日は止んでいて、太陽がひさびさに顔を出したから、街の彩が鮮やかに見えたのだろう。だからやっぱり夏を引き立たせるためにも、梅雨というものは必要なのだろうな。
 などと少し文学的なことを書いてみてはいるものの、俺の脳ミソはすでに夏モードに切り替わっていて、ものすごく浮かれているのだ。ぜーんぜん文学的でもなければ芸術的でもなく、「汗!」とか「せみ!」とか「流しソーメン!」といった、少しアブナイ精神状態なのである。
 そんな季節先取りすぎアブナイ症になるのも無理はない。数日前、ある事件が僕ぼっくりに襲いかかったからである。

 それは、ある、雨のしとしと降りしきる、なんでもない梅雨の朝のはずだった。
 いつもの目覚まし時計の音で目をさまし、いつものように布団に抱きついたまま離れず数十分ほど過ごしていたのだが、いつまでもそうしている訳にもいかず、よっこらしょうと上半身を起こした。まったく、いつものように視界がボンヤリしている。
 しかし数十分経ってもなんだか視界がボンヤリしたままなのだ。とくに壁と床の境界線がいつまで経ってもボンヤリあやふやに見えるのである。目覚ましが鳴ってすでに1時間ほど経過しているし、いくらなんでも脳ミソも目を覚ましているはずである。
 俺はベッドからのそのそと這いだし、壁と床のボンヤリ境界線を確かめるべく、四つん這いで近づいていった。

 冬眠明けのクマのように前足をベッドからタタミへ一歩踏み出したとき、えもしれぬ不思議な感触が、前足から俺の脳ミソに伝わった。なんだこの感触は…。そう思ってゆっくり自分の前足を見てみると、抹茶のような緑色でふかふかした粉末がついていた。
 そしてふと部屋を見渡したとき、全身が凍りついた。
 この六畳間のタタミ一面に、びっしりとその粉末が広がっていたのだ。それはまぎれもなく「カビ」だった。

 湿気対策のために絶えず扇風機も換気扇も回しっぱなしにしていたし、洗濯物を部屋干ししたこともない。うちにはエアコンも除湿器もないのでこれ以上の対策は施しようがなかったのだが、今年の梅雨のジメジメは半端やないけんね、やるったらやるっちゃ!ということなのだろう。

 さすがに朝から完全にまいってしまい、また数十分ほど呆然としたあと、半ヒステリー状態で掃除機をかけた。幸い粉末状のカビだったために掃除機で吸いとれたが、それでも隅の隅には残ってしまう。
 それからというもの、隅に残ったそいつがまた増殖するんじゃないかと、びくびく怯える日々を送っていたのである。

 たった一日の晴れ間に夏を見た、その夏というものが異常に開放的に見えたのも、カビに怯える異常な梅雨体験の反動なのだろう。
 そして、できれば日本中で同じようなカビ被害が出ていればいいな、と思う。なぜなら、カビカビしてるのは日本中でも俺の部屋だけ、なんて事態はどうにもやりきれないからだ。そんなのツラすぎる、あたしとてもタエラレナイ!という心情になってしまうじゃないか。
 だから、これを読んだ皆さんの部屋にも明日の朝、壁と床の境界線ボンヤリ現象が起こっていますように☆チャオ!