カモメと浜辺でたたずみたい

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 さいきん肌の調子がよくないな、と思っていたら、ある日突然ひどいじんましんにおそわれた。肌のもともと弱い俺にはじんましんというのは珍しくもないのだが、今回のそれはなんとまぁ3日間も続いたのだ。しかも全身である。初日にはまさかそんなに深刻なものではなかろうと思っていて、いつもの対処法で冷水シャワーを浴びてみたのだが一向にひく気配はない。それどころか、どんどんヒドくなっていってるではないか。翌日ももちろん仕事があるし、接客業であるが故にかなり悩みながら寝床に就いた。
 翌日はいくぶんかマシになっていたので出勤したが、スーツで隠れた肌にはまだじんましんが出ている。一晩でひかなかった事は今までにないので、かなり動揺しながらその日の仕事を終えた。その晩がヒドかった。ついにじんましんは顔にまで及び、これじゃあとても店で接客にあたれない。翌朝まで悩みに悩んで、朝イチに上司に電話をし出勤が遅れることを伝え、すぐに救急のある病院に行った。
 医師はきわめて事務的に診察を済ませ、薬を渡してハイ次々、次の人!という態度であったが、俺は接客業で数時間後には人前に立たなくてはいけない、それに原因がわからなければまたいつ同じようなコトになるかわからないからちゃんと調べてほしい、と伝えた。それを聞いた医師はあいかわらず事務的にアレルギー検査のための採血をし、後日検査結果を伝えます、と言ってまたハイ次々、次の人!の姿勢をとった。まあ仕方がない、生命の危機というわけじゃないからなぁ。

 その検査結果とやらが今日知らされた。それを見て驚いた。
 なんと俺の体は、肉にアレルギー反応を示すのだという。肉の、動物性油脂がダメだというのだ。まあ普段から肉はあまり食わずに魚中心の食生活なので問題はなさそうなのだが、肉がダメ!と急に言われると少々うろたえる。魚中心とはいえ、肉だって嫌いではない。好きじゃないけど嫌いじゃないの、ねぇ、アタシたちこのままの関係じゃいられないの?という少々乙女チックな気分になってしまっても無理ないじゃないか。幼なじみのトモミちゃんとも急な転校で離ればなれ、いま思えばけっこういい子だったな、などという気分にも似ている。まあでも、ダメと言われてしまったものは仕方ないのだ、ダメと言ってるのが自分の体なんだから。

 もらった薬の効果もあってじんましんは撃破したが、依然肌の調子は悪い。医師には、基本的にはストレス性の肌荒れ、と言われていたのだが仕事でストレスがあるのは仕方がないだろう。人がやりたくない事だから仕事として成り立つんだし。そりゃあ24時間遊んでいたいけど、もちろんそうはいかない。そんなこと考えるのは贅沢というかただのバカじゃないか、と自分を制止する。
 なにか気晴らしが必要だ。
 そしてもうすぐ7連休をもらえることになっているのだ。こりゃあ楽しむしかない。もちろん一番に頭に浮かんできたのは「海」である。それも太平洋の白い浜でビーチボールぽんぽんワアワアキャアキャア、という海ではなくて、日本海あたりでひっそり海原をながめ陽光に顔をしかめる上空にはカモメがチラホラ、というような、そんな海旅がしたい。釣りもしたい。
 そう思ったおれはすぐさま浜辺の民宿をさがす、ということはせずに、押し入れからゴソゴソと一人用テントと寝袋を引っぱり出した。