ニイチャンとジイチャンとオッサンと俺

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 ひさびさに仕事が休みで、朝日を感じながらもずっと布団にもぐっていた。壊れてしまったガス給湯機の入れ換え工事があったのだが、すぐそばで工事のニイチャンがどかどか作業をしていても、俺はずっと寝ていた。
 朝がた職場から電話があり、俺の財布が警察署にとどいていると連絡があった、という。そういえば昨晩、公園でヨッパライながら長電話をしていたからきっとその時落としたんだろうな、と思った。自分にとっては大金にあたる2万円が入った財布だったのだが、どうせ抜かれているだろうし、まず俺なら間違いなく抜くし、今さらジタバタしたってダダこねたって戻ってくるはずもないので財布が届けられただけマシだなと、えらく物わかり良く、すぐ布団に戻った。

 給湯機工事のニイチャンが「すみません!」と叫ぶ声で目をさますと、べつにニイチャンは俺に謝っているわけではなかった。工事終わったぞ、いつまで寝てんだ、さっさとここにサインしろよバカヤロウ!という意味の「すみません!」であった。すみません、と思いながら工事終了確認のサインをすると、ニイチャンは顔をほころばせて帰っていった。もしかして俺が起きるまでずいぶん待ったのだろうか。とても申し訳ない。
 さて、このままボーっとしていては一日が終わってしまうので、警察署に財布をとりに行くことにした。外はいまにも雨が降りだしそうな空もようである。と思ったとたん雨が降ってきた。急いでバイクにまたがり出発する。家のまえの道路では、最近出現した民間の違法駐車取り締まりのジイチャンたちがせっせと仕事しているのが見えた。

 下鴨警察署に来たのは1年ぶりだった。1年前に車にはねられたとき以来だ。ここはいつも変わらない。しんと静かで、なんとなく全体的にひんやりしている。まあ、警察署に活気があるのはコワイことだから、しんとしていてくれて良いのだ。
 会計課の窓口で手続きをしていると、どかどかと中年の工事作業者ふうのオッサンが入口のドアを突き破るような勢いで入ってきた。何かに腹を立てているようで声がでかい。俺は手続きをすすめながら、そのオッサンと交通課のやりとりをチラチラ見ていた。
 どうやら駐車違反のキップを切られて怒っているようなのだが、どうにもオッサンの言っていることが幼稚なのだ。最近の警察は不祥事ばっかり起こすくせに善良な市民を取り締まりやがって、どういうつもりだ!とか叫びながら携帯電話を床に投げつけているのだ。まあ言いたいことは分からんでもないし、悪い警察をまず取り締まってくれ!とは俺も思っている。けど、違反を見逃せ!チャラにしろ!と叫んでちゃあ悪い警察と同じだし、携帯電話を投げて怒鳴っている姿はなんとなく善良な市民のイメージとは程遠いのであった。しかし面倒はゴメンなので目を合わさないようにさっさと警察署を出る。
 なんと財布の中身はぜんぶそのまま残っていて、しかも拾い主は謝礼も何もいらない、とのことだった。善良な市民もいるもんだなあ、と感謝しつつ、自分を恥じつつ、すばやく家に向かった。

 家の前に宅配のオジサンが立っていた。長細いダンボールを持っているからして、通販で頼んでいた釣り竿が届いたようだ。代金を払ってサインを済ませ、嬉しくてすぐにダンボールをひらくと、部屋のなかで竿をふりまわしてみた。いいぞ、お前いいぞ!そして竿の先っちょから尻までをウットリと見つめ、そういえば昔同じように部屋であたらしい竿をふりまわしていて、壁にぶつけて折ってしまったことがあったなあ、と思い出し、そっと竿をダンボールにもどした。しかしふと気がつくと、いつのまにかそのダンボールをウットリ見つめている自分がいて、なんだかちょっと己のゆく末が心配になってしまった、そんな休日の夕暮れである。