お祝いはおいしいたのしい

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 「明日は結婚25周年記念日やから、今晩どこか外食しに行こう」と、掃除を終えたオカンが言った。今日は日曜日で、俺とオカンはそれぞれの部屋の掃除をしてた。妹とオヤジはそれぞれの部屋で昼寝。外は雪がふるほど寒くて、3月の中旬とは思えないほど。
 俺は「居酒屋にしよう、近所に楽っていう店があったやん、そこにしよう」と言った。酒が大好きなウチの家族は、外食というと居酒屋に行くことが多い。海鮮物がウマイと評判の居酒屋「楽」には、家族で唯一おれだけ行ったことがなかった。海鮮もの好きの俺にはたまらん、早く行きたくてウズウズした。

 開店時間になったからみんなで出かけた。その店は以前古道具屋やった店舗のつくりがそのまま残ってて、古めかしい鳩時計とかアメ色の板張り床とか、なんか昭和初期!って雰囲気プンプンで気に入った。案内された席は掘りごたつになってて、山桜なんかが生けてあった。
 近所にこんなにいい店があったとは・・・と急に悔しくなり、今日は思う存分飲み食いしてやる!!と急速に攻撃的な気分になった。

 みんなでビールで乾杯し(妹は未成年やからウーロン茶)、お品書きに目をやると、魅力的な料理がずらりと並んでてまいった。まいったまいった、と言いつつお花のおめめになってお品書きに全員食い入る。あえて「メニュー」と言わず「お品書き」とか書いてしまうのはやっぱり店の雰囲気が純和風で「メニュー」と書くのがなんとなく申し訳ないような気分にさせられたから。なんとなくファミレスの、コクヨ学習下敷き風メニューなんかとは一味も二味も違うんだぞヤイヤイ、と存在感たっぷりのお品書きを食い入るように見てると、オヤジが「にゅうめん」とひとこと言った。えっ最初にいきなりにゅうめん!?とみんなが思ったに違いないが、お店のおばちゃんは素早く伝票に書き込んだ。
 俺が「ほやの塩辛」、オカンが「刺身盛り合わせ」、妹が「なんこつのぴりぴり唐揚げ」と続いた。この並びからして明らかに目的は「うまい酒を呑む」というところにあるようだ。妹も間違いなく酒飲みになるはずだ。遺伝だから仕方ない。ただ、オヤジのにゅうめんだけが不可解やったけど、その謎もすぐに解けた。
 オヤジは今日、朝起きてちょっとテレビを見たかと思うとすぐ自分の部屋にもどり昼寝をしてしまった。よほど気持ちよかったのか、ここに来る直前まで寝てたから、寝起きの胃に濃厚な油モノを食う気分でもなく、でも昼飯食ってないから確実に腹は減ってて、なんかサラッと流しこめるものないかなぁ、んー、お、にゅうめ・・・という塩梅だろう。

 久々の家族での外食は楽しかった。オヤジの仕事のグチ、オカンの韓国ドラマ論、妹のベトナム修学旅行の土産話、俺のケンタ観察記などなど、いろんな話でわいわいやってるうちに店は混みはじめ、いつのまにやら満席になってた。この店はどんどん流行って頑張って続けてほしいなぁ、と思った。
 小洒落た店のわりに値段は普通で、俺の中でこの店の好感度はぐんぐん上がり、とどめのトイレの綺麗さに俺は、もうだめあっあっ・・・と全面的に降参した。

 評判どおり海鮮がうまかった。刺身ぷりぷり、さらに酒飲みのツボを分かってる料理の数々。俺は「酔鯨」の熱燗二合徳利をかちゃかちゃ呑みながらホヤの塩辛を三度もたのみ、さらに他の誰かがたのんだ料理もつつく、と欲張りに楽しんだ。みんなかなりの量を食べ、大満足の様子で顔がゆるんでる。

 日曜日ということもあって店が忙しくなり注文が通りにくくなってきたので店を出た。調理場から大将が出てきて丁寧におじぎをした。俺は「おいしかったです、また来ます」と言った。また近いうちに来ようと思う。