心地よき低空飛行

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 雪の積もった夜の山道というのは驚くほど明るく綺麗だった。俺とダッチョとニシムラの3人で近所の「瓢箪崩山」に行ったのだ。夜の2時である。山道を少しだけ登ったところに、そこそこの広さの広場があり、そこで焚き火をしながら酒を飲もうという計画だった。計画といっても、その夜とても退屈していた3人がもぞもぞと寄り集まって考え出した場当たり的な計画である。

 雪の山道はまるで雲の上を歩いているような感覚だった。雪の地面が月明かりでフワッと浮かび上がって見えるのだ。ここに来るまでに皆それぞれ家で一人酒をしていて、しかもそれなりに深く酔っていたので、白くのびる道を見てそう感じたのかもしれない。おぼろ月を眺めながら広場に到着し、さっそく火をおこすことになった。それまではフワフワ歩いていたので気付かなかったのだが、足を止めると寒さがガギッと突き刺さってきた。本当に寒い!そしてここでダッチョの出番である。
 ダッチョは超がつくほどインドア派の男なのだが、何故かつい最近までアウトドア専門店で働いていて、こうやって俺に無理やり山や川に連れ出されては、クソだるい!などと言いつつも素早く火をおこしてしまうという能力をもっている妙な男である。ちなみに現在の本職は部屋でゴロゴロすること、たまにタバコを買いに歩くのが運動だと思っている。つくづくよくわからない。
 ついでなので紹介しておくと、今日のメンバーの一人、ニシムラというのはこのブログにはめずらしく「女子」の類の登場人物ということになる。「女の子」や「女性」ではなく、あくまで「女子」または「じょし」なのである。幼少時代からの女友達というのは男にとってはいつまでも「じょし」なのである。そしてこのニシムラは気がつけば足軽に世界のあちこちを旅している妙な女子で、本拠地は日本ではなくハワイである。コイツもつくづくよくわからない。
 そんな3人、インドア火おこし男と足軽旅女子と、この中では自分は唯一普通なんじゃないかと信じて疑わない筆者の、深夜の奇行の記録となっていくかどうかは今のところまだ分からない。わからないだらけなのだ。

 ダッチョが素早く火をおこす間に、俺とニシムラは雪を円形にサクサクと踏みしめ、適当な椅子を3つこしらえた。雪を踏みしめるときに靴のなかに雪が入りこんできて、その冷たさに驚いては「ひゃっ」とか「うっ」などと単発のうめき声を発し、それが静かな山の中に響いていた。そうこうしているうちに踏みしめた円形の真ん中でパチパチと木のはぜる音がしはじめ、あたりがパッとオレンジ色に明るくなった。さすがダッチョ、仏頂面をしながらももう火をおこしてしまった。浮かれた気分をすこし落ちつけ、火を囲むように座るとすぐさま持参した缶ビールで乾杯。余っている缶は雪の中に突き刺しておくとよく冷えて具合がよかった。
 足先からの冷えも火のおかげでだいぶ治まり、いっそう穏やかな気分になって空を見上げると雲がゆっくりと形を変えながら流れていた。下を向けば火の明かりに照らされた顔が二つ、陽気におしゃべりしている。うーん、素晴らしい!!
 小学生の頃の昔話や犬の話、釣りの話や旅の話など話題は尽きず、気がつけばぼんやりと辺りが明るくなってきていた。朝が近づくと寒さがグッとやってきて、立小便がてら茂みに入ったときに太い枯れ木を拾ってきては火に投入し、火を大きくしていった。ここにいる3人はけっこうな酒好きなのでとっくに持参した缶ビールはなくなっており、4リットル入り巨大ペットボトルの安焼酎にシフトしていた。酔いがぐっと増して話題もぐっと濃くなっていく。こうなるともう止まらない。

 結局正午前までそうして喋っていた。うたげ終焉の合図は俺のしゃっくりだった。喋ろうにもヒッヒッとうるさいので何だか面倒くさくなり、帰って寝ようぜーという事になったのだ。帰りがけに「今日の予定は?」と2人に聞くと「なーんにもない!」という嬉しい返事が。そして案の定その日もまた、ずるずると快楽の酒の世界にひたってはゲラゲラグフグフと笑い、共に気だるい朝を迎えたのだった。

 そうしてコレを書いている今日、気がつけば23歳最後の日なのである。つまり明日からは24歳なのである。まいったな、24歳というのはもっともっとシッカリしていないといけない歳のはずだ。
 ・・・ところで、シッカリってどういう意味?やっぱり今日はわからないだらけなのだ。でも今日も、気分だけはまったく良好なのである。