れい奈

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 こうやって週に一回何かをモゾモゾ書いてるわけだが、つくづく時間が経つのは早いもんだなと、そう思うわけです。週に一回はこれを必ず書くと決めているのだが、けっこう書くのが億劫になる週というのもある。それはまず、特にこれといって書きたいものがない週である。淡々と七日間を過ごしてしまった週は、パソコンのディスプレイの前で悩みに悩んだ挙句、どうでもいいことを長々と書く羽目になる。俺は冬になると体よりも気持ちの芯のほうが冷えきってしまって、とにかく寒いからもうどうでもいいよ、とにかく寒いから俺はなーんにもしないよ、と、布団にくるまっていつまでもじっとしていたい気分になる。そして実際そうしてることも多い。布団の端っこから頭と片手だけを出して、ひたすら読書にひたっていたい。いっそのこと冬眠してやりたい、とまで思う。心底冬が嫌いなのだ。

 そしてこれを書くことが億劫になるもう一つのパターンは、一週間のうちにいろいろありすぎて何から書けばいいか迷ってしまうことだ。実は今週がそれに当たるのである。忘年会、色恋沙汰、学校のレポートの締切など、いろいろあった。まず、少年サッカー時代のメンバーで忘年会をしたのだが、これが楽しかったのだ。集まったのはミチバさん、ダイ、ショウゴ、ダッチョ、フウタ、ハヤッチャン、フケ、ホソ、シカチャン、シカチャンのおっちゃん、俺、の合計11人。近所の焼肉屋「萬蔵」で食べ放題飲み放題を堪能した後、ミチバさんの家に再集合して少年時代のサッカーの試合のビデオを見た。が、集まったメンバーは久しぶりに会う顔ぶれが多かったので、ビデオそっちのけでずっと喋っていた。もうこの時点ですでにだいぶ酔っていたのだが、勢いづいていたので数人で近所のスナック「れい奈」に行くことになった。

 ここは小学生の頃から不思議で仕方なかった店なのだ。まず小学生時分にはスナックというところがどういう店なのかが分からない。その頃、社会の授業か何かでこのスナック「れい奈」を含むここらの商店街のリポートをしたことがあった。スーパー、薬局、文具店、パン屋、うどん屋、といった感じで6、7軒しかないその商店街の一角に「れい奈」はあった。店が並んでいる順に取材をさせてもらい、そこがどういうものを売っている店なのか、一番よく売れているものは何か、それとなぜか店長の家族構成や趣味などまで聞いていたと思う。いまいちそのリポートの意義というものが分かっていなかったので、よくわからないままそうやって取材をしていたのだ。
 そしてその「れい奈」にも取材に入った。「すみませーん」と言いながらドアを開けると、カウンターの椅子にドレスのような真っ赤な服を着たおばさんがタバコをふかしていた。「あらなぁに?」とおばさんはタバコの火を消しながら振りかえり、近付いてきた。店にズラッと並ぶ酒の瓶や、この昼間に似つかわしくない厚化粧のそのおばさんの雰囲気にうろたえながら「なにを売っているお店なんですか?」と聞くと、おばさんは下を向いてしまい「ふふ、ふふふ」と、いつまでも笑っていたので、気味が悪くなって店を出てしまった。今から思えば、準備中の店にいきなり小学生が入ってきて単刀直入な質問をされたので、おばさんの方も困ってしまったのだろう。そしてそのリポートの中で「れい奈」については一切触れなかったという記憶が残っている。

 それから俺たちも歳をとり、スナックというものがどういう店であるかを理解した上でその「れい奈」に入ることになった。遠い大人の世界だと思っていたそこに入る日が来たのである。ミチバさんの家での宴からまだ余力のあるショウゴ、ダッチョ、フケ、俺の4人は少し緊張しながら店に入り、緊張しながらもいっぱしの大人のような顔をしてソファーに座った。遠い記憶にかすかに残っているおばさんの顔は、当時と何も変わっていなかった。俺たちは焼酎ロックを飲み、塩コンブをかじり、だらしなくいつまでもゲラゲラと笑っていた。今日「れい奈」に来たのは、年明けに結婚するフケへの前祝いの意味もあり、カラオケが苦手なショウゴや俺も歌って祝福した。ダッチョは歌が上手かった。わいわいがやがや騒ぎながら、コイツらとはホンマに波長が合うなーとしみじみ思った。その一日は、女の子のようによく喋ったし、よく食いよく飲んだ。ひたすら楽しい一日だった。
 そして「れい奈」以降の記憶がほとんど無い。そのかわりにひどい二日酔いが残っていた。