地鳴りに耳栓

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 週末、親父と二人で滋賀県の高島市にゴルフ旅行に出た。小学校6年生の頃から一泊二日で毎年行っていて、今では年に一度の恒例行事のようになっている。まあゴルフといえば聞こえはいいが、実際は最長でも140ヤードしかないショートコースだ。でもまたコレが楽しいんだなぁ!
 ゴルフ!といえば何だか胸のあたりに刺繍の入ったポロシャツを着て、下はタック入りのベージュの綿パン、おっそのアイアンは今年の最新モデルじゃないですか高かったでしょう、なんてのが頭に浮かぶが、ここに来る人は着古したTシャツに普通のスニーカーと、なんだか大衆的で良いのだ。受付のおばちゃんも「1ラウンド以降は無料でいいよ、今日はサービスよ☆」なんて毎年言ってるし、レストハウスにあるテレビはプロゴルフ中継などではなく、よしもと新喜劇が映っている。俺はゴルフなんぞは嫌いだが、ここならイイカナ、なんて思っちゃうのである。

 見渡す限り客もポツポツとしかいない中、麦茶なんかをバッグに詰め込んでコースをのんびりまわるのだが、緊張感なんかカラッキシ無い。親父なんてグリーンの上でぶつぶつ何か言いながらパターを握っているのだが、横からちょっと面白いことを言えばそのままグフフと笑い崩れてしまいそうなだらしない顔をしている。実はこの旅行の楽しみはゴルフではなく、そのあと旅館で飲む生ビールにあるのだ。グフフ・・・
 それでも少し調子が上がってきたらキッと集中してパーを連発したりするのだが、コースの移動のときにビールの話なんかをしてグフフと笑い崩れてしまえばもう後はガタガタだ。たった65ヤードのホールを6打も7打も叩いてしまうダメっぷりである。そうしてなんだか健康とは言えない汗をかいた後、二人でグフグフ言いながら旅館に向かうのだ。

 ここは親父の知り合いの旅館で、毎年ここにお世話になっている。熱い風呂で汗を流したあと、クーラーを効かせた和室に生ビールを運んできてもらって、ここから宴のスタートだ。もう明日なんてどうでもいい!って感じのペースでずんずん飲み進め、しだいに旅館の大将や大将のお孫さん、そしてなぜかご近所さんなんかも混じえての酒宴になっていく。旅館の大将が酔うと「えーいもう何でもかんでもウマイもん持ってこーい!」となり、今年は渇水で量の少ない天然鮎がドーン!と出てきた。きっと大将は毎年後悔してるんだろうなぁ。しかしいま大将は酔っぱらっていて、四角い顔を真っ赤にしながら嬉しそうに剣道の話やイノシシ撃ちの話を延々と聞かせてくれるのだ。その横で女将さんが「まったくもう・・・」という顔をしながらお酌をしている。こうして宴は深夜まで及び、皆そのままぶっ倒れるように眠った。

 夜中に目が冷めた。時計を見るとまだ4時で、寝てからまだ1時間ほどしか経っていない。原因は親父のイビキだ。親父のイビキは地鳴りのように強烈だ。だから一緒に旅行に出るときはバッグに耳栓を必ず忍ばせておく。まだアルコールの抜けない頭を起こし、バッグをたぐり寄せ耳栓をはめた。急に小さくなった周囲の音のなかで何かをしんみりと考え、そのまま眠った。

 次に目を覚ましたのは9時だった。窓の外はもうすっかり明るい。二人ほぼ同時にもそもそと布団から這い出て、麦茶を飲んだ。隣の部屋にはもう朝食が用意されていた。まだ昨晩の満腹感が残っているのでほとんど手を付けられず、味噌汁とだし巻き卵を食べた程度でまたゴルフに出た。
 台風14号の影響で曇っていたので涼しく快適だった。まだなんとなくアルコールの残った頭でぼーっとコースをまわっていると、なにやら女の子のはしゃぐ声が聞こえてきた。しかし目の前は、これを決めるとボギーという勝負どころだったのでじっと集中していた。けれどその女の子のほうから「ファーーっ!!」と聞こたので振り返ると、まっすぐこっちにボールが飛んできてるではないか!「わーぁ!」と声をあげてしゃがみこむと、ボールはスライスしてすぐ横の竹林のほうに入った。すっかり集中は途切れてパット失敗を繰り返してると、さっきの女の子が竹林にボールを探しに来た。こんな偶然があるんか、と目を疑ったが、その女の子は中学の同級生だった。女の子は二人いたが両方ともである。
 それに気付き、三人同時に「あっ!」と声をあげた。会うのは成人式以来だったのでそのままぺちゃくちゃ喋っていたが、ハッと振り返ると親父が一人でアプローチの練習をしていた。すまんすまんとコースに戻り、夕方まで汗を流したらさすがに疲れたので家に帰ることにした。
 帰り際に親父は家に電話し、「瓶ビール冷やしといてね☆」と可愛く言っていた。