ハモの湯引きと美人箸

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 テストの時期になると毎回思うのだが、ああもっと前もって勉強しておけばよかった、と今思っている。こうも暑くては勉強も捗らないので、部屋のエアコンを10年ぶりくらいに動かしてみた。古い型のやつで、最近のエアコンの倍ほどの大きさがある。電源を入れ、冷房に設定してみたが、ぶおーんという派手な音がするだけで風は何も出てこなかった。10年間放ったらかしにしてた間に壊れてしまったようだ。がっかりして扇風機をつけるのだが、暑い湿った空気をかき回すだけで全く涼しくない。仕方ないか、夏だもんな。

 先日、内定をもらった会社の懇親会とやらに行ってきた。場所は梅田にあるグランヴィア大阪で、大丸の20階にあったのだがエレベーターが複雑で困ってしまった。このエレベーターは1~12階まで、このエレベーターは1階・16階・19階・27階に止まります、このエレベーターは展望階に直行します、といった感じで沢山あり、20階に行くエレベーターは一体どれだ!と散々迷ったのだ。約束の時間の1時間前にビル1階には到着していたのに、会場に着いたのは10分前だった。焦るあまりトンガリ目になってしまったのを会場入り口で落ち着かせてから中に入ると、知らない顔ばかりがあった。知っているのは面接のときに会った人事の人達だけだ。なんだか急速に緊張し、目立たないように自分の席に着いたのだが、目の前に並ぶ料理がどれも高級感溢れててさらに緊張した。そして俺の隣に座ったのは人事部長さんだった。
 しばらくして懇親会はスタートした。食前酒というものが運ばれてきて、さらに緊張の度合いを高めてロボットのような動きをしていると、隣の人事部長さんが「酒は好きか?」と言ったので「大好きです」と答えると、人事部長さんは「ほら!」と言って部屋の隅を指さした。そこにはアサヒスーパードライの生サーバーがあって、飲み放題のようだ。ついつい嬉しくなって注ぎに行こうと立ち上がったら、ウエイターのお兄ちゃんがそれを制止し、ピッチャーから俺のビールジョッキに並々と注いでくれた。嬉しくなってグイグイ飲んでいたが、同じテーブルに座っている内定者の男1人、女2人はあんまり飲んでいない様子だった。他のテーブルも同じような感じだ。飲み放題を堪能できる雰囲気ではないな、と思い、それから俺もなんだか遠慮がちにちびちび飲んだ。

 懇親会というだけあって、皆仲良くなろう!という雰囲気を予想していたのだが、みな、目の前の高級料理と初めて見る顔に緊張しているようだ。どんどん運ばれてくる料理にもあまり手をつけられず、目の前は料理だらけになってしまった。フォークとナイフを使って上手に食べようとするのだが、ほぼ完全に和食派の俺にはなかなか難しく「ふふふ、お前にはフォークとナイフは無理なんじゃねぇか?」と料理たちに笑われている。腹は減ってるのに、よわったなあ・・・。
 そこに、救いの和食が運ばれてきたのだ!ハモの湯引き梅肉添えである。そこでテーブル上に箸を探したら、あった!料理の山々に隠れるようにひっそりと、アタシハココヨ、と白い肌を覗かせていた。俺はその和服美人ふうの箸をつかみ、「脱がせちゃイヤよ・・・」と恥ずかしそうに身をよじる箸を強引に袋から抜きとった。そしておもむろにハモの湯引きをつまみ、口の中に放り込んだ。それから振り回されっぱなしの美人箸は「もうダメ・・・」と力なくつぶやいていた。
 勢いよく和食を食い始めた俺は俄然元気になり、ビールも勢いよく飲んだ。その頃には会場の緊張感もだいぶ解けており、少しづつ会話も弾むようになってきた。がしかし、懇親会は予定の2時間になったので、お開きになってしまった。帰り際に近くの数人と電話番号の交換などして、人事の方々に挨拶をして別れた。今から熊本に9時間かけて帰る、という内定者もいた。

 その足でコンビニでビールとおつまみを買って、都島に住む先輩DJさんの家に行った。今俺はDJの活動を休止しているので、会うのは久々だった。お互いの近況を話し、小一時間ほどお邪魔して、京都に帰った。

 それから数日間ずっと部屋にこもってテスト勉強しているのだが、だんだんくたびれてきたなぁ。1~2ヶ月も前からテスト対策をしていれば、こんなに部屋にこもる必要なんて無いんだろうか。そんな事したことないから分からんなぁ。次の学期が自分にとって学生最後の学期になる。最後の学期くらい完璧なお勉強生活をしてみようかな。