今年に入ってから2週分も記事がぬけてしまって「ぼっくりは死んだんじゃないか」と思われても困るので、駄文でもなんでもいいから書いておこう。
こうもブログの更新が遅れたのは、猛烈なイキオイでバイトをしていたからだ。ボーボに雇ってもらって、ダッチョと共に働いているのだ。建築現場での力仕事である。早朝からせっせと働き、家に帰って缶ビールを一本飲み終えるまでに泥のように眠ってしまい、また朝がきて激しい疲労や睡魔とたたかいながら働き、また家でぶっ倒れる…という毎日である。
ある日、作業員休憩所で昼メシを食いおわり、もう体力の限界だあ…と思いながら長机に突っ伏して眠ってしまった。となりではダッチョも同じように眠っている。まさかこの後、想像を絶するような緊張感を味わうことになろうとは思いもしなかった。
気持ちよく眠っていたのだが、なんだか辺りが騒がしい。かしこまった声でしきりに「それではナントカナントカです、次はナントカさんナントカカントカ」などと聞こえる。
うるさいなぁ…と思いながら長机から顔を起こしてみた。
目の前にすわっているベージュの作業服のオッサンと目が合った。怪訝な表情をしている。辺りをキョロキョロ眺めまわしてみると、どうもメシのときの雰囲気とは大きく違う。長方形に並べられた長机に、作業服のオッサン達がきちんと背筋を伸ばし、整然と座ってこちらを見ている。なんだなんだ!?と思いながらその視線をきちんと辿っていくと、どうやら俺たちを見ているわけではなく、その背後のホワイトボードを見ているようである。あいかわらず「ナントカナントカなので、昼からはナントカの作業にとりかかってナントカカントカ」などと意味のよくわからない言葉が飛び交っている。
数分後ようやくわかったのだが、その作業員休憩所では昼休みの一時間の後半は職長会議が行われていたのだ。大きな建築現場なので、そこで働く建築業者の数も相当なものであって、毎日昼にこうやって各社の職長が会議をひらき折衝を重ねていたのである。そこでいつまでもノンキに昼寝をしていた俺たちが悪かった。しかし会議はすでに中盤戦にさしかかっているようで、しかも俺たちの寝ていた位置がその即席会議場のかなり上座にあたり、席を立つには相当な度胸が必要だった。
俺とほぼ同時に目を覚ましたダッチョとしばし呆然とし、そして腹をくくった。
しっかり、やりぬいてやる…。
あいかわらず会議は続いている。「それでは○○工業さん」「はい、○○工業、昼からの作業内容は鉄筋組み、正面玄関のハツリ、3階窓サッシの差し替え作業。注意事項としましては手元足元の確認。作業員31名。以上です。」
このような調子で各社の代表が順番に、昼からの作業内容の報告を続けていた。そして絶望的なことに、その順番がずんずん俺とダッチョのほうへ向かってきていた。
俺たちは黙って顔を見合わせた。ダッチョはすっかり顔が引きつっている。きっと俺もそうなのだろう、額のあたりが汗ばんでいるのがわかる。
そして次の瞬間、もっとも恐れていたことが起こった。
「それではナンソー工業さん」。ナンソー工業というのは俺たちの元請会社の名前、つまり俺たちは「立って作業内容の報告をしろコノヤロウ!」と言われているのでありますね。
そんなこと言われても困るから、聞こえないふりをしていたら、また「ナンソー工業さん!」と今度はいくらか強い語調で言われた。俺はそこで観念し、立ち上がった…。
「はい、ナンソー工業、昼からの作業内容は不明ですが、今日の昼食弁当の中身は、白ごはん・焼き鮭・菜っ葉の炊いたん・タコときゅうりの酢の物・ポテトサラダ・おしんこ。全6品、腹は8分目です。以上。」
あたまのタンコブを押さえながら作業現場に戻ると、ボーボが俺たち二人を待っていた。「たいへんな目に遭ったわー」と言うとボーボは、「そうそう、あの休憩所は昼休み後半は職長会議があるねん。でも二人とも気持ち良さそうに寝てたから、もういいかなーと思って放っといたわハハハ」などとほざくではないか。殺意が芽生えたのは言うまでもない。
俺とダッチョとボーボは明日から三重県鳥羽市の沖合い14キロに浮かぶ「神島」というところで2泊ほどキャンプをするのだが、ボーボには最後の晩あたりでテントごと焼け死んでもらおうと思っている。