眠らない街

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 面接でどっと疲れた脳ミソのまま総武線に乗って新宿に戻った。カプセルホテルに戻り、初めて自分のカプセルを確認した。意外と快適そうな感じでなかなか良い。変な汗をいっぱいかいた服を脱ぎ、大浴場で疲れをとることにした。

 一人で大浴場ってのは淋しいなぁと思ってたけど、実際そうじゃなかった。誰に気をつかう事なくマイペースでゆっくりできる。いい気分でしゃかしゃか体を洗い、大きな浴槽に浸かる。湯に浸かりながら気持ちいいなぁ~と天井を眺めてたりしたけど、なんか雰囲気がおかしい。ん?と思い、同じように浴槽に浸かってる男どもの顔を順番に眺めた。んん・・・その雰囲気のわけが分かった。大きな浴槽の中央あたりにドンッと浸かってる男の目が明らかに怪しい。その男は、体を洗い終えて浴槽に向かってくる男の体を下から上まで舐めるように見つめ、入浴客を震え上がらせてた。いわゆるゲイってやつだろう。俺は暢気にすっぽんぽんで歩き、浴槽に勢いよくジャボン!と浸かったが、歩いてる俺も舐めるように見つめられてたのかと思うとゾッとした。その男は浴槽に向かって歩いてくる男を順番にねっとりと見つめ、それぞれに不気味な笑みを発射してた。見つめられた入浴客は若干怯えながら湯船に入り、端のほうで小さくなってた。そう、なるほどココは噂の歌舞伎町だったなぁ、と思った。体はすっきりさっぱりしたが、生ゲイを初めて見た俺の気分はどよーんとして大浴場を後にした。

 今日の晩飯はお待ちかねの浮かれ気分。会いたかった友達と一緒に晩飯を食う約束をしてた。せっかく風呂でさっぱりしたんやから新しい服を着たいところやけど、なんせ荷物の量の関係で1セットしか持ってきてない。リクル-トスーツにスーツ用の革靴、下着の替えと洗面用具でトラベルバッグはいっぱいになってしまったから仕方ない。しぶしぶ同じ服を着て、待ち合わせの西部新宿駅の入り口に行った。

 そこで初めて気付いたんやけど、新宿ってのは昼とは違ってもう全面的に夜の街なんやなぁと思ってしまうほど人であふれ返ってた。俺は大きな交差点の歩道の端に固まり、上空のネオンや笑顔の歩行者を眺め、これがトーキョーかぁ~と視線をいろんなところに走らせた。わずかな時間やったけど、動きまわる人の中で一人それを静止して眺めてる感覚は何かに似てるなぁ、と考えてた。それは例えば、飲み会の席で自分がトイレに立って、戻ってきた時にその会話になかなか戻れずにいる時の感覚に似てた。意外な場面での意外な感覚を楽しんでるうちに、待ってた友達が到着した。いま自分がボーっと眺めてた光景の一部に、今から自分も溶け込むと思うと、それだけでワクワクした。

 (続くようで続かない、完!)