そとは薄曇りだけど今朝の気分はまったくすがすがしい。さっきから部屋の扉のむこうで柴犬ケンタの足音がチャカチャカうるさい。そうやって「さんぽつれてけ」とせかしているのだ。もう少ししたら望みどおり散歩につれていってやろう。
この冬はやたらと寒いけどまったくカゼをひかないのが不思議だ。いつもこの時期になると鼻をずびずびすすっているはずなのだが、この冬はそれがまったくないのだ。それは「首」を冷やさないように気をつけているからだと思う。人間にはいくつか「首」がある。まず普通に、首。あと手首や足首がある。乳首はどうだか知らないけど、まあ冷やさないほうがいいんだろう。
その「首」をつねに隠しておくのだ。首を冷やさないためにタートルネックのうえにさらにネックウォーマーをして、外に出るときはかならず手袋をする。足首には丈のながい靴下をはき、家のなかでも脱がない。乳首はまぁ、ふつうの格好をしていれば冷えることはない。
これで冬のカゼ対策はバッチリなのだ。毎冬カゼをひいてる俺が今こうやって元気なのはこの「首隠し」のおかげである。
いつも冬がくるのがイヤでイヤで仕方がなかったのは、もしかしたら毎冬カゼをひいていたからだったのかもしれない。
この冬は例年とちがって雪が多いから、いっそ冬を楽しんでしまおう!と開き直ったのもきっと精神的に良かったんだろうなぁ。
雪がふるたびにケンタと山に探検しにいったりわざわざ氷の上を歩いてみたり、暮れには雪上焚火酒宴というのもやった。いつもなら冬眠同然のひきこもりオウチダイスキソトキライ、家暖鍋味噌汁熱燗熱風呂大好極愛!外寒冷洗濯物不乾不快不愉快雪氷滑事故悶絶死嫌嫌嫌!となるのだが、この冬はまあ嫌嫌嫌!とはならずに「冬は寒いから冬なんだよな」となにか急にモノわかりが良い子になってしまったのだ。
それと比べると以前の俺はスーパーの駄菓子売り場でねころがってダダをこねるクソガキも同然である。布団にくるまって本を読みながらときどきチラリと窓のそとに目をやり、灰色の雲を見ては「あーもうヤダヤダ」とつぶやき、ミゾレまじりの雪を見ては「サイテー」などとぼやき、たまに外にでて雪道でちょっと足を滑らせては「んもう!」なんて怒ったりしていた。さむい冬がくるとどうやらストレスのせいかオネエ言葉になるようである。
まあでもこの冬は雪がふれば犬と「わーい」なんて言ってるので、いたって健康な精神状態なのでありますな。
それに、アラスカの零下50度やロシアの永久凍土の世界、南極の大地、マゼラン海峡の氷河、ヒマラヤ山脈、世界のいろんな寒いところとくらべたら日本の冬なんて屁みたいなものじゃないか。こんな程度の寒さでくじけたらいかんぞ!たかが日本の冬くらいでカゼひいちょったらお前・・・おまえ!と、死んだじいちゃんが枕元にでてきて叱咤激励したりはしなかったわけだが、まあ、たかが日本の冬なのである。首隠しの術くらいでカゼをひかなくなる、屁のような冬なのだ。じいちゃん、この程度の屁、いや冬じゃあ俺くじけない、おれは強い子ぞ!
なんだか興奮してきたから、冬をけちょんけちょんにしてやろう。
「冬」「寒さ」「氷」「雪」などと書いてあるものはすべて「屁」と「オナラ」それに「くさい」におきかえてやる。俺やるよ、やるよじいちゃん!
じゃあスタート。まず手始めに新聞の「冬」をやっつけよう。うちは京都新聞である。がんばって書いた記者さんにはもうしわけないが今からけちょんけちょんにして、けちょん!と言わせてやるのだ。一度やるって決めたら俺ってばヒドイんだから!スッゴイんだから!とか言ってたら一向にすすまないのでさっそく新聞に目をやる。
「ロシアでは厳しい屁が当面続き、十七日夜には屁が三〇度にまで下がる見通し」。ほほう、いまは屁が30度以上なんだって。食あたりでもしたのかな、あつい屁がでるのは下痢のときだもんな。たいへんたいへん!んむぅ、重要箇所の「氷点下三〇度」を「屁が三〇度」にしたのはちょっと無理矢理すぎたかな。まあいいや、次!
「オナラ景色の中にそびえる新潟スタジアム、ビッグスワン」。オナラ景色にそびえるのはビッグなヒップだろ。いやだな、こんなところでサッカーしたくないな。息スワンというか吸えん。
暮らしのページにきたぞ。「今年のオナラは大変クサく、植物も我慢しているよう。お正月を彩っていた洋ランやシクラメンは元気ですか。」ゲンキですかー?植物もたいへんなんだな。耐えろ洋ランやシクラメン。草たちよクサさにめげるな!
お、ここで広告スペース突入。「夜の屁もへっちゃら!熱気を逃さない羽毛掛布団」。なるほど屁熱の有効利用、いい心がけだ。5点くれてやる、しゃあなしやで。それにしても「屁もへっちゃら」とは、オヤジギャグが過ぎる。警告!
「滑りやすいオナラ道での歩行に最適なスリップガード付きブーツ。雨や屁の路面でもファッショナブルに」。オナラ道、オナラミチなのかオナラドーなのか。まあとにかく滑りやすいオナラ道にはこのブーツで決まり。だってファッショナブルだもん。色は赤格子、白格子、ヒョウ柄の3色。昭和風のファッショナブルダサブーツをあなたもぜひ!
最後にテレビ欄。「なるトモ!・オナラを楽しむ飛騨高山マル秘温泉」「午後は○○おもいッきりテレビ・屁で弱る肝臓を救う」「Live5・大オナラの洛北リポート」「NHK一番・阿寒湖のクサさを体感」「平原綾香・屁季五輪のテーマを歌う」「トリビアの泉・オナラの味おでんを1ヵ月煮込むとどんな味に?」「まんが日本昔ばなし・屁女」などなど。
まいったか冬!と言いたかったのだが、なんだか書いてるこっちがまいってきてしまった。手始めに新聞、などと言ったがけっこうな時間を費やしてしまったじゃないか。もう読みはじめてから4時間も経っている。4時間も新聞を読んでいたのに、大事そうなニュースなんて脳ミソになーんにも残ってない。残ったのは疲労感だけである。「冬」という漢字だけをさがして読むのはけっこう目がつかれるのだ。
新聞以外にも冬をさがして屁にしてやろうと思っていたのだが、もうこれ以上やると目から屁が出そうだ。冬をこらしめるつもりが逆にこらしめられてしまったではないか。
ちくしょうコノヤロ冬!と言いつつイッパツ放屁すると、その音に反応したのかケンタが扉の向こうでチャッチャッという足音をたてた。
そうだそうだ散歩だった散歩散歩。そとは寒いのかなぁ。やさしくしてね、冬。