道の駅「古仁屋」の誘惑。

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 さて、鶏飯食ってほっこりしたらそろそろ名瀬市の宿に帰らねばならぬ。コンタクトをとっていた奄美の人たちと会う約束をしているのだ。

 いそいで原付バイクのエンジンをかけ出発。ここからはまだ100キロ以上の道のりがある。あくまで元きた道を戻る近道ではなく、島一周コースを貫くのである。しかしそれは甘~いワナの連続であった。
 まずしばらくすると古仁屋の町に出た。なにやら海の駅という建物が目に入り、まだ出発して数分ではあるが、ちょっと寄り道をしてみることにした。
 そこは奄美大島の海産物を扱っている小さな市場のような売店があったり、海の幸レストラン(と書いてあったが食堂みたいな感じ)があったり、まあ全面的に海のシアワセ食材たちが踊っている場所だったのだ。ゆっくりと、光り輝くお魚さんたちを見てまわる。貝もいる。海草だっているが、魚貝たちの輝きにはかなわないなぁ、草だもんなぁ。
 さて、そんな輝きの光景の中、すみっこのほうで地味~な雰囲気を醸し出している一角があった。夜光貝の水槽である。そいつらをじっくりと見てみた。…見てみたが、夜光貝はびくりとも動かず、いたって地味~に水槽のへりにヘバりついているだけなのであるが、実に哀愁深く、「こんな水槽の中で過ごすくらいなら…あなた…あなたアタシを…アタシを食べてえぇぇっ!!」という貝の心の声が聞こえた。ようし、食べてやるけん…いま食べちゃるけん!!と俺は目をうるませ、大2500円・中2000円・小1500円と書いてある札の、「小」を指さし、「あの、この貝のちっちゃいやつを刺身にしてください…」と、ちっちゃな声で言い、ちっちゃな自分にまた目をうるませた。
 10分ほどその夜光貝が刺身になっていくさまを眺め、小さなトレーにこんもり盛られた夜光貝の刺身を手に、海の見えるベンチに急いだ。夜光貝は「小」とはいえそれなりにデカイのだ。こんもり盛られた刺身をしばし呆然と眺めシアワセに心震わせ、天を仰ぐと気持ちのよい青空であった。もう何も文句ないのである。
 トレーに流しこんでもらった醤油に夜光貝のキラキラの身をひたっと付け、口におもむろに放り込むと、なんとも形容しがたい海の優しさの味がして、ふんわりやわらかい部分の身とコリッと歯ごたえのある部分の身を交互に食べ「あぁーもうダメだぁービールのみてー」とつぶやいて、ベンチの上でもんどりうった後、まあとにかく目の前の夜光貝の山を食い進むというシアワセの道を進むのであった。

 まだ名瀬に戻るまでは100キロ以上の道のりを残している。

(写真は、だいぶ食い進んだ後の夜光貝でございます)