
いつものマカロニ食
2024年12月31日、大晦日。

釣り車中泊旅3日目の朝を、橋杭岩(はしくいいわ)すぐのビーチで迎えた。
風もなくおだやかな陽気で、とてもすがすがしい。

あとでこの敷石とテトラの先まで行って釣りをしてみよう。
まずは腹ごしらえだ。
僕の旅の常食のなかには、ラーメンとならんでマカロニがある。
マカロニは折れたり割れたりしても気にならないので携帯食として便利で、茹でもいい加減でいいし、最近は茹で時間2分とかの激早なものまである。
そんなこんなで、昔からお世話になっているのだ。
まず湯をわかし、早茹でマカロニを投入する。
火は止めてもよくて、その場合は指定時間の1.5倍くらい待つだけだ。
なんなら保温のきく水筒のなかでもできる。
鍋のフタのうえでレトルトのパスタソースを温めておく。
そして湯切りをした湯はスープに流用すると、朝食の2品が完成である。

ネギだくスープと、早茹でマカロニのクリームソース。
単独行動オヤジの朝食としては十分でしょ。
こいつを車内でグワシグワシと掻きこんでいると、道を行き交うキャンピングカーの多さに気がついた。
この数分だけでも10台以上が通っていったのだ。
きっと初日の出をもとめて本州最南端をめざす人たちなのだろう。
見渡すと、この海浜公園の駐車場にもキャンピングカーが3台停まっていた。
そのうち2台は犬を連れての旅のようだ。
キャンピングカーの主とすこしお話ししてみたが、定年退職後にこうして犬と釣りをしながら日本中を気ままに旅しているんだと。
贅沢だなぁー良いなぁーー!!
魚にフラれ湯にフラれ

腹も満たされたので、テトラ帯から釣りをしてみた。
今日も今日とて、いつものライトゲームである。
しかし大晦日だというのに…暑い。
ロンTとライフジャケットだけになって、それでもすこし汗ばみながら1時間ほど竿を振ってみた。

うん、機材だけは調子がよい。
そんな確認だけを済ませて車にもどった。
(ボウズ)

しかし良い場所だったな。
ココにはまた来たい。
そろそろ目当てにしていた温泉「サンゴの湯」が営業開始する時間なので、一番風呂めざして向かうと…
ぬぅわんと!年末年始休業!!

寝汗と釣り汗(そんな言葉はない)をここで気持ちよく流してから、今日の歩を進めようと思っていたのだが。
それが叶わないと分かった午前10時、急に汗の不快感が気になりはじめた。
湯を探そう…とにかく風呂だフロだ浮浪だ!
そうして名残惜しむ間もなく串本をあとにした。
Googleと現実の狭間をゆく
湯を目的に出発したので、温泉の多い那智勝浦のほうへ自然と車が向いた。
その道中で、事前にチェックしていた釣りスポットに寄っては竿を出してみる。

外洋にどかんと面した「動鳴気漁港」は、ドメキ漁港とよむ。
釣り場としては良さそうだがトイレがないので、車中泊地としては初日スルーした場所。
こころドメかせつつ竿を振ってみるが、海に「下手くそ!」とトドメを刺されそうになった。
(ボウズ)
こころドヨメかせ釣り汗も累積させた僕はもう湯に入りたい入りたくてしかたない。
Hey湯ぅ!どこにある?
Googleマップに聞いてみる。
そうしてマップに導かれ那智勝浦をどんどん進んでいくのだが、調べたところは行けども行けども年末年始休業となっていた。
Googleは「やってるYo!」と言うのだが、実際行ってみると「やってないYo…」というわけだ。
やってるYoとやってないYoのはざまを、何度も何度も行ったり来たりさせられて…
風呂に入れないかもしれない冷や汗も加算され、もはや半泣きである。
虹の先の桃源郷
そんなこんなで那智勝浦を全敗で通過することとなり、クジラのまち太地(たいじ)に入った。
「もうドヨメかせないで…タイジもしないで…」
悲壮なきもちで車を進めていたら、、、
目の前にドドーンと虹!!

ちょうど信号待ちで写真がとれた。
写真ではイマイチ分からないけど、七色くっきり見える立派な虹である。
虹ってイイよね、なんか勇気が出てきた。
よぉし!また歩を進めるぞ!
と意気込んだところで、間違ってマップの導く道からはずれてしまった。
なんだか山を登ってるぞ、へんな道にはいってしまったじゃないか。。。
そう思いつつも引き返せずに進んでいると、なんだココは!
湯じゃないか!!

こうして偶然にも出会った「ゆりの山温泉」は大晦日も営業していた。
しかも今どき珍しく、400円という破格である。
もう寝汗釣汗冷汗汗々汁々したたらせ入湯させてもらった。
仏頂面のおにいちゃんに400円を渡し、湯に向かうと…
あおく錆びた蛇口から湯がドバドバとめどなく出つづけている。
すべての蛇口という蛇口から、である。
あまり温泉や公衆浴場が得意でなく経験もすくない僕は、なんだかこの光景だけでも「これが温泉かぁー!!」と圧倒された。
カラダを洗ってようやく汗類汁類とオサラバし、さっぱりして湯船に浸かった。
先客の2人が静かに目をつぶっている。
僕もマネしてみる。
おぉ…なんとも心地よい。
少しぬるめの湯だが、湯温以上にカラダに温かさが浸透していく。
20~30分はそうしていただろうか、ぬるいのに温まるフシギな感覚であった。
整ったボウズ
整った僕は妙な余裕をみせ、また釣り場巡りを再開した。
そして釣り場として良くてトイレもある場所が見つかれば、そこを車中泊地にしよう。
明日は元旦なので、初日の出がきれいに拝める場所だと尚よし。
すこし進んだ先の「宇久井漁港」で竿を出してみた。
海はいつのまにか爆風になっている。

なんの反応もなかったが、整った僕はもう余裕である。
(ボウズ)
次は「三輪崎漁港」へ。

港内いろんなところにルアーを投げてみたが、全体に浅くて魚の気配がない。
それでも余裕ぶって堤防を進んでいくが、めちゃくちゃな暴風にその余裕はすこしずつ削られていく。
小学生くらいの少年がキャッキャとはしゃぎながら釣りをしていたが、釣果なんて気にせずに暴風に向かって投げることを楽しんでるみたい。
やっぱり少年はいつも最強だなぁ。
ときどき地元民らしき人々とすれ違う。
犬の散歩をしている少女たち、原付バイクのじいちゃん、石ころを海に投げてる青年、まんじゅうを食べながら歩いてる老夫婦…
なんだか賑やかなのだ。
堤防は「鈴島」と「孔島」という小さな島をつないでおり、孔島の林のなかには神社があった。

この中で暴風から守ってもらい、ちょっと休憩。
調べてみると今まさに風のピークのようで、風速13mであった。
たまにこの鳥居をくぐって人が来る。
そうか、みんなこの神社に向かっていたのか。
しばし休憩してちょっと余裕が戻ったので、さらにこの先の堤防の先っちょまで行ってみた。

幅1.5mほどの堤防でこの暴風はこわい。
釣りを終えて帰ってくるご夫婦とすれ違いざま話をしたが「風で釣りになんねぇ」とのこと。
「気をつけてねー」とお別れをし、先端まで来た。

ルアーを投げてみたがラインがぶわーーーっと風に煽られて、釣りになんねぇ。
そしてどこまでも浅くホントに釣りにならんので、また余裕を削られながら引き返す。
(ボウズ)
堤防の根元にもどって、チェックしていた足湯ですこし暖をとろうと思ったら、ここも年末年始休業だった。
大晦日の賑わい
まだ今晩の車中泊地が決まっていない状況での夕日に、すこし焦りを感じ始めている。
そして晩メシの用意もできていない。
なので近くの大型スーパー「オークワ」に立ち寄ってみた。
このデカさはもはや大型スーパーをこえて、ひとつの街である。
広大な敷地の中心にあるスーパーに入ると、大晦日の盛大な賑わいをみせていた。
…ん?
商品が賑わっていない。
商品棚がスカスカなのだ。
ぬぬ…なるほど!
この賑わっている人々のカゴにもう商品がおさまってしまったのか!
もはや地魚などはすべて姿を消し、売り場のはじっこでおせち用ニシンの昆布巻きやフグ鍋セットやカニの豪華ファミリーセットのわずかな売れ残りが、目を潤ませながらコチラを見ている。
いや違う、違うんだ、君たちじゃないんだ…
僕は今晩も、おひとり様なんだ…
ふと目を落とすと、手元にブリ刺身のサクがひとつだけ残っていた。
すかさず手をのばし胸にひしと抱き、カゴに入れる。
このでっかいスーパーで、残っていた刺身はこのブリだけ…
ブリ刺しのサクひとつのカゴをもって、レジの長蛇の列にならんだのであった。
家族連れの買い物客たちはみんな大晦日らしい顔をしていた。
僕もひとりながら、それっぽい顔をしてみせた。
日が暮れる5秒前
真っ暗になるまえに車中泊地を決めないといけない。
車中泊のポイントはトイレなので、Googleマップでトイレを検索して進む。
神宮の街から海ぞいに北上し、熊野川をわたり…
お?ココいいんじゃないか?
ここは「鵜殿魚港」。
うどの、とよむ。
近くの小さな公園に公衆トイレもある。

完全に日が暮れる5秒前に、海に出てみた。
おぉ…ここは素晴らしいかもしれないぞ。。。
熊野川の河口にあるココ鵜殿は、これより北に22kmも続く「七里御浜」という砂浜の始点にあたる。
このまっすぐな砂浜、漁港や河口、このあたり一帯は、東にひろがる大海原の視界をさえぎるものが全くない。
つまり明日の朝、この大海原からのぼる初日の出を拝めるのではないか!
それってステキじゃないか。
満場一致で、ここが年越しの車中泊地に決まった。
(ひとりだけど)
一年の幸せを噛みしめる
ココが車中泊地と決まれば、車を停める場所や向きを整えて、やっとビールが呑める。
漁港の防潮堤に旧型セレナを寄せて停め、いよいよビールの儀「プシッ」が執り行われた。
もう釣りをする気はなく、今年最後はボウズを受け入れた。
万年雑魚釣り師らしい釣り納めである。
ビールを呑みながら、車窓から周囲を見渡してみる。
漁港内は照明がこうこうと明るいが、そこから50mほど離れたこの防潮堤はすこし木々に遮られて影になり、落ち着いた明るさだ。
防潮堤のうらは陸地を海風からまもる防風林になっており、そこまで港から離れると真っ暗でちょっと怖そう。
漁港と防風林のちょうど間のココは、なにかと丁度いい。

オークワで買ったブリを切って刺身にしよう。
残りひとつの焦りで、そういえば値段も産地もロクに見ていなかった。
ひとりで食べるには贅沢な量の腹側片身のサクは、鹿児島産の養殖ものだった。

ちょっと多いので朝食の分を残しておこうかとも思ったが、まあ大晦日だし、おせち料理もないから、一気にいっちゃうことに。
ブリを贅沢に頬張りながらビールをコクリコクリと呑み、漁港の風景をながめながら晩酌はすすむ。
ときおり明るい照明のしたで犬の散歩をする人や釣り人の姿がみえた。

港のあかりを眺めながら、なんとなくぼんやり今年一年のことをふりかえっていた。
決してすべてが良いことばかりじゃなかった一年、むしろ色々ありすぎた一年で、どちらかというと悪いことのほうが多かったかもしれない。
そんなことを考えていると、地元秋田に帰っているオクサマから電話がきた。
チョーナンの声だった。
今日あったことなどをお互いに話し、ジナンとも話しをして、いとこたちが集まって賑やかそうな雰囲気も電話口に感じながら「良いお年を!」と電話を終えた。
そうか、良いお年だったんだ。
去年の今ごろはまた「良いお年を」といって、今年の幸せを願っていたんだよ。
そんな一年をまた「良いお年を」で締めくくり、来年の幸せを願うわけだ。
そうして家族で幸せをねがう一年は、それだけで良いお年だと言えるだろう。
一緒に幸せを願える家族がいる僕ぼっくりは、ちゃんと幸せじゃないか。

残っていたネギをふんだんに使い、ムッチムッチとブリを噛みしめる。
ブリと一緒にこの一年の幸せも噛みしめ、ホロッと酔って眠りについた。
明朝は早く起きて、七里御浜から初日の出を拝むのだ。