奄美といえば鶏飯、というイメージがあった。
というのも、ちょうど1年前くらいに、俺が島好きだと知っている知人から「スローライフ奄美」という奄美の郷土料理本をもらい、そこに載っているのを見ていたからだ。奄美大島に行くなら鶏飯を食わねばならぬ、と心のどこかで思っていた。
島に着いた翌日、おれは名瀬市内で原付バイクをレンタルし、島一周のバイク旅に出かけた。とここまでは鼻歌まじりのお気軽旅気分だったのだが、なんと奄美大島の大きいこと…。さすが大島と名乗っているだけのことはある。
最初は青い海を見るたびバイクをとめ、キレーとか言いながら目をキラキラさせて寄り道していたが、原付バイクでちんたら進めど進めど、島の南端に到着しない。しかもその日は奄美の人もさむいさむいと口をそろえて言うような日で(それでも14度あったが…)、奄美は南国だと思って薄着をしてきたのは失敗だった。だんだん鼻水が垂れてきて、手はかじかみ、冷風を浴びつづけた目は充血して真っ赤になり、寄り道はどんどん減っていった。
ヘロヘロのグシャグシャになったところで、目指していたヤドリ浜に到着。よろよろと砂にうずまりながら浜をあるき、そして見上げた先に小さな建物があったので入ってみた。そこは「いそしぎ」というレストラン&ライブハウスといったところで、中には地元の警察官がマスターと灯油ストーブにあたって暖をとっていた。きょろきょろしながら窓辺の席につき、メニューを見るとそこに小さく「鶏飯」と書いてあるではないか。これは頼むほかない。
マスターと警察官のおじちゃんと小話をして鶏飯の登場を待った。話によるとその二人は幼少期からの1歳違いの友達のようで、昔は名瀬市内からここまでバスでも悪路のため5時間近くかかったという話や(おれは今日もっとかかったぞ!)、海のむこうに見える加計呂麻島はもっと海がキレイだという話を聞いているうちに、お目当ての鶏飯がしずしずと運ばれてきた。
初めて見た鶏飯というものは、鶏のささみ、錦糸卵、シイタケの佃煮、パパイヤの漬物、ネギ、ゆずの皮、もみ海苔などを乗せたアツアツのごはんに、鶏ガラのダシ汁をかけて食べる、一風変わったお茶漬けのようなものだった。食べてみると、わっ!!と驚くこともなく見たまんまの予想通りの味なのだが、それがとても素朴でやさしく、しみじみウマかった。
鶏飯というのは奄美の伝統のおもてなし料理だそうで、常にどこかしらの占領下にあり、ただただ搾取対象とされてきた歴史をもつ島人の、残されたわずかな食材でつくる最高のおもてなし料理だったのだという。これを食べて冷え切った体をあたため、俺はしみじみと奄美大島が好きになっていった。